お店に迷い込んできた捨て犬の話を小説風に書いてみた(昔の話です)

日々のできごと、思うこと

昔、雑貨屋さんをやってた頃、捨て犬がお店に迷い込んできたときのことを書きます。ちょっと小説っぽい文体にしてみました。

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ある雨の日。お店の中でお客さんに商品の説明をした後、レジに戻るとそこに犬がいた。

毛が雨にぬれてすっかり衰弱した様子だ。頭を体に埋めて小刻みに震えている。

「おい、どうやって入ってきた?」優しく手を出したが、ウーッとうなり声をあげられ手を引く。レジのところだけカーペットが引いてあるため暖かいのだろう、おなかをつけてこっちを向いている。


「大丈夫かあ、びしょびしょじゃないか」

なんとか頭をなでてやろうと手を出したが、噛み付こうとするのであきらめた。
そのまま営業時間が終わるまで待つ。
自分の店には変わったお客さんもくるが、犬がひとりで入ってくるのは初めてのことだ。


このままにはしておけない、とりあえず外に出さないと。 
お店の営業が終わって、何か食べ物を買ってくることにする。お店の鍵をしめて、コンビニに行き、ドッグフードと牛乳、そしてソーセージを買った。


店に戻ってみると、犬はさっきと変わらぬ場所でカーペットに体を埋めてこっちを見ている。毛はまだぬれたままだ。


とりあえず店の外に出さないといけないと思うが、さっきの様子だと体を抱えるのは難しそうだ。そこで、ソーゼージを小さくちぎって犬の前に置いてみる。犬は少しだけ匂いを嗅ぐとすぐに口の中に入れた。

よし。ソーセージを小さくちぎって店の入り口の方に少しずつ置いていく。犬は体を起こしソーセージにつられて歩き出した。

漫画みたいだな、と思いつつも、そのまま外まで連れ出すことに成功した。


さて、どうしようか。とりあえず店の扉を閉める。そのまま帰ることもできず、かといって連れて帰るのも難しそうだ。

結局店に戻り、段ボールで犬小屋を作ることにした。屋根もつけ、そこにビニールを張った。意外と犬小屋らしくなった。店の横に雨のかからないスペースがあったので、そこに作った小屋を置き、中に使っていない布を敷いてやる。

おい、お前の家だよ。近く牛乳を入れたカップを置くと、犬は近づいてきて口をつけた。ドックフードも皿に入れて置いてやる。

おい、このお皿は店の商品なんだぞ、大切にしろよ。

もちろんそんなことを気に留める様子もなく犬はドックフードを食べていたが、食べ終わるとしばらくして、小屋の中に自分から入っていった。


良かった。とりあえず今日はこれで大丈夫だろう。

次の日は犬のことが心配で早めに店に来た。犬はちゃんと小屋の中で寝ていた。
ほっとして店の中に入る。ドックフードと水を出してやるとすぐに気付いて小屋から出てきた。


今日気付いたのだが、この犬は手を挙げると極端にビクッとする。普通じゃない反応に、ひょっとして虐待を受けていたのではないかと思い至る。
頭をなでようと手を挙げたときのその犬の表情をみるとそれしかないように思われた。

かわいそうに。俺はお前をいじめたりしないからな。

いろいろ考えた結果、犬は実家で飼うことにした。母親は、犬はいつも先に死んでしまってつらいからもう飼わない、と言っていたので心配だったが、話すと店まで迎えに来てくれた。


実家では、以前飼っていた犬の名前を引き継いで、「チコ」と呼ばれることになった。

確かに雰囲気が前のチコに似ているかもしれない。

おわり