
【妄想レビュー】CINEMA 『ウオウオ・ウォー』

監督/マーサ・ツーボイ
出演/アレク・ツーボイ、レオン・ツーボイほか
VFX ヨッシー・ツーボイ、ケンゴ・ツーボイ
2014 日本 96分
(ストーリー)
誰の顔を見ても魚に見えてしまうウオウオ病にかかってしまった高校生のマサルは、やがて自分の姿まで魚に見えるようになり、水族館で生きていくことを決めて修行の旅に出る。
旅先で、自分が宇宙人だと知り、自分の星を目指すが、その星は深刻な問題をかかえていた。
マーサ・ツーボイの初監督作品を、公開前にいち早く見た。
相手の顔が魚に見えてしまうウオウオ病にかかってしまった高校生の主人公が、水族館で生きていくことを決めて修行の旅に出るところから映画は始まる。
この映画のややこしいところは、設定が日本のある街に住む日本人高校生にも関わらず、その役を外国の人が演じているところにある。
彼なりに日本人の高校生になりきって演じているつもりなのだろうが、日本語の台詞のたどたどしさが、オタクカルチャー好きの外国人が初めて原宿に来て興奮しているだけのようにも見えた。
ただしそこに笑わせる要素は見当たらず、いたって真面目だから困惑は深まっていく。

さらにその高校生が実は宇宙人だということだからさらにややこしい。
自分が宇宙人だと知った主人公は、他の宇宙人とその施設から脱出し、自分たちの星へ向かうことになるのだが、ややこしさに拍車をかけているのが、映画全体のチープさだ。
主人公の魚顔も他の宇宙人たちも、明らかに紙で作ったお面で、頭の後ろにはゴムでお面をとめているのが見えてしまっている。
セットもダンボールで作ってあることが瞬時に分かる。
SF映画は、いかにリアリティを表現できるかが映画に没入できる一つの重要なポイントだ。
そんなSFの世界が、幼稚園の劇でももう少しマシだと思うような作りでは、ただただ違和感だけが画面を支配するだけだ。

しかし、しかしである。その違和感は三十分あたりを過ぎるとまったく消えてしまう。
ぐいぐいとストーリーに引き込まれ、いつの間にか主人公に同化してウオウオ病にかかり、自分も宇宙人のひとりとして、ダンボール宇宙の中を漂うことになる。
地球に戻り、自分たちがなぜ地球にいたのか、その理由を知るころには、不覚にも涙でスクリーンが曇ってしまった。
号泣でエンドロールの文字は何一つ読めなくなっていた。
結論的なことをここにまとめるなら、これは閉塞感漂う現代日本をシニカルにしかも叙情的に表現した素晴らしい作品である。
配給が決まっていない今、これを映画館で見ることができるかは分からないが、近年まれに見る、夢とせつなさ満載のSFD(スペースファンタジーダンボール)映画だ。
